実践、『食品衛生7Sかるた』を使った衛生講習

2015.09.30

上田和久

 『かるた』というと日本古来の遊びで特にお正月には家族そろってコタツで遊んでいました。今では懐かしい遊びとして紹介しなければならないものでしょうか。
 そのかるたを食品衛生の教材として食品安全ネットワークが『食品衛生7Sかるた』として編纂、昨秋発売されていました。
 10月から11月にかけて厚生労働省『地域創成人材育成事業』の一環として、一般社団法人北海道食品産業協議会主催の「求職活動支援セミナー・人材育成講座」の講師を引き受ける際に教材として使用してみました。以下はその報告と私の印象です。

 初めて食品産業に勤務する方たちを対象として、基本的な衛生知識を身に着けてもらう講座で、カリキュラムは実践的な手の洗い方、手袋の着用方法といったものから、食中毒菌の知識、食品の表示法についてといった専門的な分野、また食品衛生の歴史、各種の規格や、HACCPについてなど食品の安全に関わる基礎的な事項をカバーしたものです。
 3日間の講座の中で専門用語の飛び交う座学だけでは、経験の浅い方たちも正直辛い思いをされるだろうと教育プログラムの中に、『食品衛生7Sかるた』を入れることにしました。ご存知の通り、食品衛生7Sは、「食品安全ネットワーク」が提唱している、食品メーカーが製造の安全安心を進める中での基本的なメソッドです。
 講義の中では、食品衛生7Sの概要を説明、整理・整頓の意味、目的である微生物レベルでの清潔、その環境を得るための清掃・洗浄・殺菌、そして扇の要としての躾といった、キーワードを説き、実際に現場に就いていない参加者に衛生概念のイメージを持ってもらう様にしました。そして『7Sかるた』が作られた経緯を解説した上でカルタの実践です。
 実際にカルタを手にした方はお分かりだと思いますが、工場での実践に近い事象が出て来ます。そこで今回の講座ではすぐに始めないで、カルタを適宜参加者に配り、それぞれが手にしたカルタを
(1)面白い、気に入った、印象に残った、興味がある、人に教えたい
(2)普通、当たり前、常識
(3)難しい、意味が解らない、解説が必要
という、3つのグループに分けて、分けたものを発表してもらうことにしました。さらに(3)に選ばれたものの疑問点を解説したのです。

(1)に選んだものは、すんなりとそれぞれが共感できる内容のものだったようで、例えば、介護施設で長年調理を担当してこられた方の印象に残ったカードは、『経験の過信は事故のもと』という一枚だったそうです。こうやって自分の経験を踏まえて紹介してもらうと他の参加者にも伝わっていきます。
 他には『能力を超えた受注は事故のもと』という一枚を選ばれました。これは講習会の前半で取り上げていた食中毒菌の説明で、サルモネラ属菌に汚染されたティラミスを原因とした食中毒事件の解説をしていたことが印象に残っていた様です。テキストベースの情報がカルタの札から励起されたもので、形を変えた反復による教育の効果が見えて手ごたえを感じました。
 (1)の設問による印象に残った言葉を他の参加者に伝えるという行為は、自らの潜在意識にも働きかけるもので、これを相互に行うことでカルタに書かれている情報の共有化と同時に、日常生活や仕事の現場でも衛生管理の意識が上がっていくことが期待出来ます。

(3)のグループに分けられたカードは以下のものでしたので解説をしました。資料無しの即答ですから緊張感があります。といっても実体験を交えながらの解説なのでなんとか伝わったのではないかと思います。
・む ムリムラムダ無くす取り組み衛生向上
 食品7Sのベースは工業製品の製造現場で行われてきた5S活動であるため、現場のムダ取りも取り組んで来たという経過を解説しました。
・ほ 捕虫器の効果的な活用を
 捕虫器を見たことの無い参加者に、家庭にある歩行昆虫用のトラップの話に、スーパー等の屋外に設置されている電撃殺虫機(これはあまり薦めていないことも含めて)をイメージしてもらい、光誘虫タイプの捕虫器を解説しました。紫外線で誘虫するので、入り口の近くで外から見えない場所に設置するという説明をしました。
・も 盲点は清掃不足と水溜まり
 床のドライ化は食中毒菌の繁殖の3要素、水分、栄養、温度を取り除くのに有効だという話を含め、清掃の最後に水切り乾燥をすることを解説しました。
・た 誰がやったか記録で判る
 食品工場が認証を得ている各種の規格も解説しているのですが、それらの中に記録が重要な位置を占めていて、その設計と実施、検証が必須であるという解説をしました。
・を 終わりのないのが7S実践
 実際に工場での衛生管理は、終わりがなく、また日々PDCAサイクルを回しながらシステムを向上させていくことが必要なのだということを伝えました。 

 そのような解説を挟んで、いよいよカルタ取りのスタートです。4名で机を挟み、こちらの読み上げる札を懸命に探します。自分で紹介した札は取り逃さない様にと念押しをしてありましたので愛着を込めて取っています。また枚数が進むごとにエキサイトして来ます。これは想像以上でした。やはり競争と褒められるのは皆さん好きなのですね。終了時には参加者全員が笑顔になっていました。緊張感と達成感を短い時間で得ることが出来るゲームでした。これはチーム戦とか対抗戦とかをするとかなり盛り上がるでしょう。

 7Sカルタは添付の解説書にある様に、西堀栄三郎氏(品質管理の先達、第一次南極探検隊隊長)の「西堀かるた」をヒントに作られたそうです。品質管理の名言集を食品衛生に特化して作り上げた名言集とも言えます。一枚一枚に味わいがあります、しかしそれだけに言葉の表面をなぞっただけではピンと来ないで、すぐに忘れてしまいます。
 そこにゲーム性を持って取り組むと、耳や目、さらに手も加わって食品衛生の基本になる言葉を身に着けていくことが出来ます。参加者全員がベクトルを合わせていき、イメージを具体化していくことも出来るのです。
 今回は初心者向けの講習会に使ってみましたが、食品工場だけでなく飲食店などでも積極的に取り入れて食品衛生7Sの基本の基を共有化されてはいかがでしょうか。

 

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